「ミスト・ボール!」 火乃木の魔術によって生み出される白色の球体。それがバグナダイノスの顔面目掛けて放たれる。 着弾と同時に爆発を起こしたミスト・ボールによって白い霧が発生し、バグナダイノスの視界をさえぎる。 同時に俺とネルは走り出す。俺は右から、ネルは左からそれぞれバグナダイノスを挟み撃ちにする。 「ストーム・ブリットォ!」 ネルの声が聞こえる。その技によって、バグナダイノスの横っ腹を殴りつけたのだろう。 俺の目線からはどうなっているのかはわからないが、血が飛び散るような音が聞こえたので、ネルの拳は攻撃対象の皮膚を深く抉《えぐ》るだけの力があるのだろう。 『ギャアアアアアアアアアアア!!』 バグナダイノスの叫び声。ダメージも十分のようだ。 俺も攻撃に転じなければな。 俺は右手のひらを広げ、自分の体格にあった大きさの長剣を生み出す。その長剣でバグナダイノスの横腹を縦に切り裂く。 赤い血が飛び散り、またもバグナダイノスが悲鳴を上げる。その途端、バグナダイノスが方向転換し、俺の方を振り向く。 恐竜の表情なんて読めないが、目がギラギラしていることだけはわかる。その目に宿るのは憎悪に違いない。 「ミスト・ボール!」 バグナダイノスの方向転換の直後火乃木の魔術が炸裂する。再び蔓延する白い霧。俺はバグナダイノスの腹の下にもぐり、その腹に剣を突き立てながら走る。 剣は浅いながらもバグナダイノスの腹を切り裂く。その瞬間、バグナダイノスの叫び声と同時にその巨体が俺の真上から落ちてくる。 それを確認した瞬間は即座に横に跳びバグナダイノスの腹の下から脱出する。 「あぶねぇ!」 「鉄《くろがね》君!」 「ネル!」 「気をつけて! 様子がおかしい!」 「なに!?」 俺は一度距離をとってバグナダイノスを見る。 すると確かに様子がおかしかった。鼻息がかなり荒く、口を閉じている。 そう思った時だった。 バグナダイノスが俺に向かって、口から大量の液体を吐き出したのだ。 「ううお!?」 その場から動き、回避行動をとる。 間に合わない……! なら! 俺は自らの持っていた剣を液体目掛けて投げつける。 「散《サン》!!」 と叫んだ。 その瞬間、剣が爆発し、バグナダイノスが吐き出した液体を爆炎で吹き飛ばす。 無限投影によって作り出した俺の武器は、俺自らの魔力の塊だ。その魔力を内側からはじけさせたのだ。 『ガアアアアアアアアアアアアアアア!!』 バグナダイノスの叫び声。バグナダイノスは体を大きく回転させ、尻尾で攻撃を仕掛けてきた。俺だけよけることは可能だが、跳んで回避すれば火乃木にその尻尾が直撃する。俺だけが回避するわけにはいかない! 「火乃木!」 叫び、火乃木の元へと向かう。 「レイちゃ……わぁ!」 火乃木の体を抱きしめると同時に俺の背中をバグナダイノスの尻尾が直撃する。 「グッ……!」 「レイちゃん!」 俺と火乃木は大きく吹き飛ばされる。地面をゴロゴロと転がり、大木に激突する。どうにか自分の背中をぶつけることで火乃木へのダメージを防ぐことは出来た。背中に激痛が走る。かなり痛い。 「グッ……ううう……いてぇ」 「レイちゃん! レイちゃんしっかり!」 心配そうな表情で俺をみる火乃木。俺は右手に魔力を込め長剣を出現させると、それを地面に突き立てながら立ち上がる。 「ハァ……ハァ……ハッ! ……ッハァ……!」 「鉄君! 火乃木ちゃん!」 ネルが叫ぶ。見るとミスト・ボールの霧が晴れ、視界を取り戻したバグナダイノスが、ネルに向かった攻撃を仕掛け、ネルはそれからどうにか逃げ回っている状態だった。 「ミスト・ボールを早く! 私一人じゃ倒せないよ!」 「火乃木!」 俺は火乃木にミスト・ボールを撃つよう促し、自らも走り出す。 「う、うん! ミスト・ボール!」 火乃木の魔術がまたも炸裂し、白い霧がバグナダイノスの顔面周辺に生まれる。バグナダイノスはそれと同時に、さっきと同じように自らの体を回転させ尻尾を振る。 どうやら学習したらしい。早くも挟み撃ちと言う手は使えなくなったようだ。だが、学習しているのはこっちも同じ! ネルは凄まじい勢いで迫り来る尻尾を跳躍で回避し、その尻尾の根元に向かって跳び、着地する。間髪いれず、さらに高々と跳躍する。真上から必殺の拳を食らわそうって言う魂胆らしい。 確かにそれなら相当なダメージを与えることは可能だろう。だが、そのバグナダイノスはさっき液体を吐き出したときと同じように口を閉じ、自らの首を大きく振り上げる。このままでは奴の口から吐き出される大量の液体がネルに浴びせられることになる! 「うおりゃああ!!」 俺はさっき生み出した剣を自らの体を一回転させ、その遠心力を利用してブン投げる。 その剣がバグナダイノスの横っ腹に突き刺さったその瞬間。 「散!!」 その剣を再び爆発させた。 爆発そのものは決して大きなものではない。しかし自らの肉体に突き刺さった剣が爆発すればダメージは小さくないはずだ。俺の目論見どおり、バグナダイノスの体が揺れ、上空目掛けて吐き出すはずだった液体は途中でよだれのように口からあふれ出す。 「ストーム・ブリットォ!!」 上空のネルは自らの拳をバグナダイノスの背中目掛けて放つ。 その拳はバグナダイノスの背中を抉り、確かなダメージを与えた。直後、ネルはバグナダイノスの体から降りて俺の隣までやってくる。 「ナイス! 鉄君!」 「ああ」 バグナダイノスの横腹や背中には俺達がつけた大きな傷ができ、大量の血をしたたらせている。 まだ倒れないか……。 「ネル。奴の動きを止めたい。あの足、狙えるか?」 「ん〜ちょっとキツイかも……。結構激しく動くし、動きを止められたとしても倒れてきた拍子にこっちまで潰されかねないし……」 そう。そうなんだよ。奴の足さえ潰せればここまで苦労することはなかったんだ。だが大きなリスクとして接近戦をしかけたらこちらが奴の巨体に潰されることもありえる。 火乃木の魔術にあの巨体の足を確実に潰せるほど高威力なものはなかったはずだし……。 「鉄君! 来るよ!」 「ああ!」 待てよ……。確かに足を潰すことは難しいかもしれない。 だけど、それがつま先なら……? 人間だって足の指先を硬いところにぶつけたら、思わず動きを止めてしまうくらいの痛みが発生するじゃないか。 やってみる価値はあるか。 「火乃木! 奴のつま先にボム・ブラスト!」 「わかった!」 火乃木は即座に反応し、ボム・ブラストを放つ。バグナダイノスのつま先目掛けて4つの火炎球が跳んでいく。そのうち1つを踏みつけ、いくつかがつま先周辺で爆発を起こす。 すると。 『ガアアアアアア……!!』 バグナダイノスの動きが止まり、悲鳴を上げる。膝《ひざ》を折り、その場でうずくまる。 チャンスだ! 「行くぞネル!」 「OK!」 当初の予定通り、再び挟み撃ちにする。 「いくよぉ! サイクロン……」 俺は少しだけ離れた位置から全身の魔力を両手の平に集中させる。 「マグナム!」 爆音のような音が発生する。音だけで判断するなら今までとは比べ物にならないほどの威力を持った拳を放ったようだ。 恐らくダメージは内臓まで達しているかもしれない。 「トカゲちゃんよ。ここいらでケリつけようぜ……」 俺は両手を前に突き出し、自らが必殺技と呼ぶに相応しい魔術を発動した。 「剣の弾倉《ソード・シリンダー》!!」 両手の魔力が開放され、同時に10数本の刀剣が生み出されると同時に、凄まじい勢いで飛んでいき、バグナダイノスの横腹に突き刺さる。 おびただしい量の血が飛び散り、バグナダイノスが悲鳴を上げる。 「散!!」 叫ぶや否や、突き刺さった大量の剣が一斉に爆発した。 小さくも無数に重なった爆音。立ち上がる血飛沫《ちしぶき》。 「ガアアアアアア……!! ギャアアアアアアァァァァ……!」 悲鳴を上げるがそれも徐々に小さくなり、バグナダイノスは倒れた。 ミスト・ボールによって生み出された霧も晴れていく。血に染まったバグナダイノスの巨体が横たわり、俺達が勝利したことを暗に示していた。 「か、勝った……」 俺は肩で息をしながらそうつぶやいた。ネルと火乃木がゆっくりと近づいてくる。 「勝ったんだね……ボク達」 「そうだね……流石に疲れたよ」 ネルは額に汗を浮かべている。それは火乃木も同じで、緊張の糸が解けたのか、ヘタヘタとその場に座り込んだ。 「はぁ〜……すっごく疲れたぁ〜」 「3人で戦ったから倒せたんだね。1対1だったらとても……」 「同感だ……」 満身創痍の体で、俺はゆっくりとバグナダイノスに近づく。 「にしても……なんだってこんなデカイのが森に……」 「あとで役人に伝えておいたほうがいいかもね。この森全域が調査されることになるだろうけど」 ネルの言うとおりだな。こんなのがいる森をほおって置くわけにはいかない。 ゆっくりと尻尾の方まで眺めながら、俺は少しばかり距離を取る。 コイツの存在とノーヴァスが何かしら関係していることは間違いないだろうな。 「グルルルル……」 「レイちゃん! まだ生きてる!」 「なに!?」 火乃木の声が聞こえた瞬間、俺は背中に強い衝撃を受け大きく吹き飛ばされた。 「うおおおおおおおおおおお!!」 「レイちゃあああん!!」 「鉄くぅぅぅぅぅん!」 一体何が……? わけが分からず、俺の体はいともたやすく吹き飛んだ。 吹き飛ばされた先には通路として整備されていないところだった。背中から地面に激突するも、そこから先は崖になっていて、俺はその崖をゴロゴロと転がり落ちていく。 さっきの戦いで緊張の糸が切れた直後だったせいか、全身のいたるところに力に入らない。 どれくらい続くのかと思った直後。 崖の下には川が流れていて俺は見事にその川に落ちた。全身に水の冷たさが染みる。落ちた瞬間心臓が一瞬速く動く。 俺はすぐに水面から顔を出す。川の流れは大分速く、とても自力で岸までたどり着けそうにない。 しかもこの川そのものが一種の坂になっており、流れが恐ろしく速いからとても抗えない。 「ちくしょう……。どこまで流されるんだ……」 無理に岸にしがみつこうとしてもこの速さじゃそれさえできそうにない。流れに身を任す意外に俺にできることはなかった。 |
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